失われた2つの時計 ― インドで気づいた、“なりたいあなた”になる方法 ―

失われた2つの時計 ― インドで気づいた、“なりたいあなた”になる方法 ―

あなたは一日に、何度「時間」を確認していますか?
それは、スマートフォンでかもしれませんし、腕時計、あるいは壁に掛けられた時計でかもしれません。

時間を気にする女性
時間を気にする女性

次の予定に間に合うか。
遅れていないか。
もうこんな時間なのか。

私たちは無意識のうちに、一日中、時間を気にしながら生きています。時間を確認することは、もはや習慣というより反射に近いのかもしれません。では、もしその「時間」を、ほとんど気にしなくても一日が回るとしたら? そんな状態を、想像したことはあるでしょうか?

大自然と早朝の風景
大自然と早朝の風景

私はインドに滞在していたある期間、ほとんど時計を見ずに過ごしていました。正確に言えば、時計を見なくても困らない状態で日々を送っていました。
朝は目覚ましではなく、自然と目が覚めます。外の光や空気の重さ、身体の感覚で、その日の調子もわかります。食事や打ち合わせの予定はありますが、日本にいた頃のように時間に合わせにいく感覚は、次第に薄れていきました。

不思議なことに、焦っていないのに遅れていない。むしろ、物事は必要なタイミングで自然と整い、こちらが力まなくても前に進んでいきます。
そして、ある日、ふと気づいたのです。腕時計がなくなっていることに。
いつ、どこでなくしたのかは分かりませんでした。それどころか、なくなっていることに、しばらく気づいていなかったのです。それほどまでに、自分の感覚だけで動けていたのかもしれません。

日本へ帰る頃、その出来事と重なるように、もう一つの時計のことを思い出しました。20年ほど前、人生の節目で購入した時計。これは、インドへ行く前にすでに手元からなくなっていました。当時の私は、「こうでなければならない」「今はまだ足りない」という思いに強く縛られていました。時間に追われ、予定を詰め込み、頑張ることこそが前に進む方法だと信じていた頃です。

インドで気づいた、時計がなくなっていたという事実。そしてその前に、静かに手元から消えていた、かつての私の時計。それは単に物を失くした、という話ではなく、時間に縛られて生きていた自分と、時間を基準にしなくても動ける感覚との、移り変わりを示しているように思えました。

この2つが心の中で重なったとき、昔学んだヨガの認知論の言葉が、ふとよみがえったのです。

時間も空間も、私たちが作り出したもの。

時間の流れを感じる砂時計
時間の流れを感じる砂時計

私たちは「過去→現在→未来」という一直線の時間の中で生きていると、疑いなく信じています。だから、何かを変えたいと思ったり、なりたい自分があると思ったりしたとき、こんな考えが浮かびます。

「まだ足りない」
「今はまだできていない」
「だから、もっと頑張らなければならない」

この“不足”を起点にした努力は、確かに行動を生みます。けれど同時に、心と身体を常に緊張させてしまうのです。不足から始まった意識は、不足に反応し続ける。その意識で描く未来は、どうしても「今の延長線」にある自分から、自由にはなれないのです。

では、どうすればいいのでしょうか。

ここで一つ、テレビのチャンネルにたとえて分かりやすくお伝えします。
見たい番組があるのに、別のチャンネルを何度押しても、画面は変わりません。努力したから正しい番組が映るわけではありません。必要なのは、押す回数ではなく、チャンネルを合わせることです。

実は人生も、これとよく似ています。
なりたい未来のあなたがあるなら、まずはそこにチャンネルを合わせる。
すると、必要なステップ ― 出会い、情報、機会、偶然のように見える流れ ― が、後から自然についてきます。これは、心理療法でも使われている技法のひとつです。

このとき大切なのは、今までの自分を否定しないこと。過去のやり方や成功体験に、必要以上にしがみつかないこと。一度、まっさらに戻ることです。
この状態を、ニュートラルと呼んでいます。それがマインドフルネスでいうところの、いまここ。過去も未来も、いったん手放します。

朝、目が覚めた瞬間、昨日の悩みから一日が始まっていないでしょうか?
「また今日もあれをやらなければ」
「昨日の続きが始まる」

マインドフルネスとは、その“つながり”を一度切ることです。切った瞬間、選び直す余白が生まれます。だからこそ、「なりたい未来のあなたに、今なる」ことが可能になるのです。やり方は、とてもシンプルです。頑張る必要はありません。気合も、特別な準備もいりません。

朝、目が覚めたら、ベッドから起き上がる前に、ほんの1分だけ使います。
まず、深く息を吐きます。
吸うよりも、吐くことを意識して、肩の力が抜けていくのを感じてください。
次に、背中を少しだけ伸ばします。姿勢を正す、というより「今ここに戻る」感覚です。
そして、こう問いかけます。

「その“なりたいあなた”だったら、今日の最初の一歩を、どう選ぶだろう?」
大きな答えはいりません。完璧な答えも不要です。

  • 今日はどんな気持ちで人に接するか?
  • どんな言葉を選ぶか?
  • どんなペースで一日を始めるか?

それが一つ浮かべば、十分です。このとき、未来を想像しようとしなくていいのです。「こうなりたい」と強く思い込む必要もありません。
ただ、その位置に立つだけ。立ち位置が変わると、見える景色が変わります。選ぶ言葉が変わります。反応のしかたが、少しだけ変わります。それでいいのです。
その小さな一歩が、一日の流れを変え、やがて人生の向きを変えていきます。

今日という一日を、昨日の延長として過ごすのか。それとも、今この瞬間から“なりたいあなた”で生きるのか。
“今のあなた”は、どちらを選びますか?